Ultimate Breaks & Beats – Vol.6 「聖典」には「旧約」があった?

今なお続く「Breakネタを掘って、編む」営み

「UBB以降」においても、「Breakネタを編む」営みは継続されている。

 

1990年代に入って間もなく、UKはNinja Tuneレーベルの「Jazz Breaks」がジャズやダウンテンポ・シーンへの分化・共振を見せた一方で、90年代後半には、UBBの流れを汲んだ「Dusty Fingers」「Strictly Breaks」等による「原点回帰」な動きがあったりと、この「Breakネタを集めたコンピレーション」は、今なお様々な志向でのリリースが進められている。

 

Cover of Jazz Brakes Volume 1 Cover of Diggin' 3 Cover of Dusty Fingers Volume Two Cover of Strictly Breaks Volume 1

【引用】Discogs(画像押下で当該サイトへ)

 

「聖典」の「旧約」版?の存在

そんな「UBB以降」にも隆盛を続けたBreakネタ編纂の動きの中にあって、「UBB以前」に同様の主旨でリリースされたコンピが存在する。「Super Disco Brake’s」(以下、SDB)だ。
こちらは、1979~1984年の間に、Winleyレコードから6枚のシリーズでリリースされた。UBBと異なりアンオフィシャル、つまりリリースにあたっての権利関係はクリアになっていないコンピレーションとなっている。

 

【引用】Discogs(画像押下で当該サイトへ)

 

このSDBを編纂・リリースした「Winleyレコード」は、今となっては生まれ得ないであろうユニークな活動スタンスをとったレーベルだった。
Paul Winleyにより1956年にハーレムで設立された当初は、Doo Wapを扱うレーベルだったようだが、1970年代に入ってからは、Afrika Bambaataaの初期作や娘をラッパーに仕立てた作品等、HipHop系のアーティストの新録作をリリース。その一方で、マルコムXの演説音源をリリースする等、社会派な一面を見せる傍ら、SDBのようなイリーガル臭もプンプンなコンピレーションを出していたワケだ。

【引用】Discogs(画像押下で当該サイトへ)

 

「旧約」の内容、そして「新約」との関係性から見えてくること

SDBに収められた楽曲は全部で43曲。これら収録曲を、UBBと同様にタテヨコ分析した結果が以下の通り。

※文字がPCで小さい場合には、各自拡大の上ご確認を。「Ctrl」と「+」を一緒に押すと拡大出来ます。

 

 

SDBの収録曲を「リリース時期」と「ジャンル」を軸に眺めていると、全体の3/4が「70年代ファンク」で占められており、その様はUBB以上の潔さだ。
そして、注目すべきは「UBBとの重複」だろう。それは11曲に上り、そのいずれもがお馴染みのファンキーBreakと相成った。
つまり、これらの重複曲については(UBBの前身として1980年代初頭にリリースされた「Octopus Breaks」シリーズの存在を加味しても)、「UBBよりも先にSDBが編んだ」ということになる。

UBBのコンパイラーふたりが、SDBの存在をどう受け止め、それをUBB編纂にあたってどう反映したのか(もしくはしなかったのか)は、今のところ確たる情報を掴められておらず判然とはしていない。
しかしながら、当時のDJからは「SDBはイリーガルなものだったし、UBBのようにオリジナルの楽曲を高音質なサウンドに録り直されたものが必要だった」との発言もあったことからは、SDBはUBBの先達、「聖典」という例えになぞらえるならば、「旧約」版として位置づけられる存在だったのかもしれない。

一方で、レーベル運営という観点で両者を比較してみるならば、SDB/Paul Winleyが、当時のHipHopシーンに「新たなアーティストによる作品リリースという生業」から関わっていた一方で、UBB/LennyとLouは、アーティストを抱えることをせずに「コンピレーションのリリース」に特化していた。
70年代の後半には、HipHopは既に「Break Beats使い」から「バンドによる生演奏」に移行していた時期であり、WinleyもSugarhillやEnjoyといったレーベルと同期する動きを取っていた中、80年代後半以降のUBBが取った「過去の遺産からの使えるビートの発掘・編纂」とのスタンスは、それらとは異なるものであり、結果的に「ビートへの求道」として捉えられているように感じる。

 

Breakを編纂するという営みには様々な形がある中、UBBへ集まるリスペクトに「神聖化」の意味合いが含まれているように感じられるのは、この辺のレーベル運営のスタンスも影響しているのかもしれない。

 

■Super Disco Brake’sに関する詳細データ(収録曲名等)はこちらで確認

Super Disco Brake’s | Discogs

 

【出典】

How one essential vinyl collection transformed the sound of music and helped funky beats conquer the world | by Robbie Ettelson | Cuepoint | Medium

noblue

 1

コメント

  • NoBlue より:

    「UBBは権利関係クリアされてます」ってハナシですが、その割には曲名やアーティスト名の間違いが多いような。
    一方で、当時のストリートで使われてた「曲名の略称」で表記してるってハナシも、それはそれで「どんなクリアランスやねん」ってことかと。

コメント

コメントを残す

Translate »