Ultimate Breaks & Beats – Vol.5 勝手に「Episode 2」
2024年11月20日
UBBが「未完の聖典」だったとしたら…?
当ブログ Vol.3の結びに記した「UBBは未完の聖典なのではないか」との妄言は、その後、筆者自身の頭の中をグルグルと掻き回した挙句、「UBBを構成するに至っていないパズルのピースがあるのではないか」といった興味を沸き上がらせた。
つまり「ライセンス取得等の都合で止むを得ずUBBに収められなかったのかもしれない楽曲」や「UBBのリリースがストップした90年代以降00年代初頭までのサンプリング隆盛期を支えた楽曲」を抽出・想像することで、 「HipHopの骨格」としてのUBBに、ある種の肉付けが出来るのではないか…それが「UBB – Episode 2」なるかどうかは別として。
見えてきた「UBB以降」のシーンの風景
作業にあたっては、Vol.3に引き続き「The Re:Sampling Dictionary 2008」のデータを基にした。
冊子の全ページをめくりながら「15曲以上のサンプリング実績を持つこと」を条件に、「UBB」にはコンパイルされていなかった楽曲を並べてみたのがコチラ。
上記条件で抽出された楽曲数は106曲。最も古い楽曲は1967年のLou Donaldson、最も新しい楽曲は1985年のZappとなった。
最もサンプリングされた数が多かったのは124曲でSlyということになったが、トップ10には相変わらずのJBファミリーに加え、フュージョンや80’sファンクのエントリーが占めたことは、「オリジナルUBB」と異なる傾向だろう。
■ベスト10
- 124 Sly & The Family Stone – Sing A Simple Song (1969)
- 94 George Clinton – Atomic Dog (1982)
- 71 Skull Snap – It’s A New Day (1975)
- 68 Bob James – Nautilus (1974)
- 65 Bob James – Take Me To The Mardi Gras (1975)
- 63 Parliament – Flash Light (1977)
- 59 Zapp – More Bounce To The Ounce (1980)
- 58 James Brown – Get Up, Get Into It And Get Involved(1971)
- 58 Ohio Players – Funky Warm (1972)
- 50 Bobby Byrd – Hot Pants-I’m Coming (1971)
これら106曲を、Vol.2同様に「リリース年」と「ジャンル」でタテヨコ分析してみると、「オリジナルUBB」の多くを占めていた「太いビート」を携えた楽曲が一気に少なくなった替わりに、いわゆる「打ってるトラック」の材料としてリサイクルされることになる「シャープなビート」を持った楽曲が多く現れている。
また、HipHopのビートを構成するというよりは、ウワモノを飾るための「メロウで流麗なミッド/スロウ・トラック」がエントリーしているのも、極めて納得な集計結果だった。
加えて、西海岸独自のHipHopシーンでの需要に応える形と思われる「Pファンク」界隈の楽曲も、無視できないエントリー数を誇ることに。
これらは、「UBB以前」と「UBBの後」との間で進んだであろう、ネタ曲のジャンルやテイスト、リサイクル方法なんかの変遷をクリアに表しているように思う。
ただその一方で、Skull SnapやBob Jamesの、ここでのエントリーに対しては「UBBに入ってないんだ…クラシックなネタだったんじゃなかったっけ?」といった印象も持った次第。この辺の事情に近づくには「各Breakネタが最初にピックアップされた時期」といった切り口での分析が必要なのかも。
「UBB以降」が改めて示してくる「UBBの真髄」
Vol.3で浮き彫りとなったのは、UBBの「太いビート」への求道振りだった。特に、サンプリングネタとしての役割にフォーカスするならば、主に「ファット/ドープ」という言葉で表現されるHipHopの意匠は、このUBBにより完全具現化されていた、とさえ思えてくる。
一方で、今回のVol.5で「UBB以降」にフォーカスを移した結果、HipHopがサンプリングのバリエーションを拡げたことで、よりメジャー/ワールドワイドな音楽となっていった足跡の一端を辿ることとなった。その様は、HipHopがあたかも「UBB以外」を求めてきたスタンスでもあるのではないか。
DJやトラックメイカーたちが、事あるごとに「拠り所」とする一方で「崩し」の対象にもしてきたような様からは、UBBの不思議な存在感/抗し難い魅力に繋がっているようにも見える。
■UBBに関する詳細データ(収録曲名等)・収録曲への参加ミュージシャンはこちらで確認
https://www.discogs.com/ja/label/807847-Ultimate-Breaks-Beats?page=1
noblue
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そういった意味では、UBBって、俳句の世界でいうところの「歳時記」、ファッションにおける「TAKE IVY」みたいなもん、なんですかね。
エッセンシャルな側面と、影響の受け方が問われるみたいな「二面性」という意味で。