「聖典」を攻略するための「聖典」

UBBがもたらした「HipHop等への影響力」を推し量るべく、UBBの各収録曲が「いくつの楽曲にサンプリングされたか」を調べてみた。
拠り所は「The Re:Sampling Dictionary 2008」。ここでは、サンプリング元となった楽曲がABC順に羅列され、それらの楽曲がHipHopやR&Bのどんな楽曲にサンプリングされたかがわかるという内容となっている。帯の推薦文には、Freddy Freshが“サンプリングの聖典”という言葉を贈っている。
冊子の詳細な編集方針や情報収集方法は定かでないが、2007年までにリリースされたHipHop／R&Bの楽曲を参照し、17000件以上のサンプリング案件が掲載されている。このことからは、充分に網羅的なデータと言えるだろう。実際、文字通り“古今東西”のトラックが登場している。

■「The Re:Sampling Dictionary 2008」。日本で発売されてました。

この冊子をフル活用させていただき、UBBに収録された178の楽曲たちがサンプリングされた数を調べ集計してみたのがコチラ。

※こちらも、PCでは各自「Ctrl」+「+」同時押下で拡大の上ご確認を。

見えてきた「HipHopの骨格」としての役割と新たな発見

サンプル数のトップは、257曲のぶっちぎりでJames Brownの“Funky Drummer”となった。二番手がHoney Drippers“Impeach The President”、三番手がLyn Collins“Think”。どれもお馴染みの、まさに「HipHopトラックの骨格」を成してきたビートネタたちだ。
また、トップ10も集計してみたが、どれも説明不要・問答無用のBreakと言えそうな一方で、その半分は「Funk以外」からのランクインとなった。Break界のスター選手の多くは「Soul」「Rock」のフィールドから生まれているというのは、全体傾向とは全く異なる結果であり、これは面白い発見だった。

■サンプル数トップ10（左の数字が「サプリングされた楽曲数」）

257  James Brown – Funky Drummer (1970)
131  Honey Drippers – Impeach the President (1973)
110  Lyn Collins – Think (1972)
109  James Brown – Funky President (1974)
102  Melvin Bliss – Synthetic Substitution (1973)
75   James Brown – The Payback (1973)
73   Kool & The Gang – N.T. (1971)
69   Skull Snaps – It’s a New Day (1973)
61   ESG – U.F.O (1981)
54   Incredible Bongo Band – Apache (1973)

一方で、冊子の掲載内容からはサンプリングされた実績が確認できなかった楽曲もチラホラ。一部を挙げると、Barrabas“Woman”、David Matthews“Main Theme From Star Wars”、Please“Sing a Simple Song”、Experience Unlimited“Knock Him Out Sugar Ray”、Fonda Rae“Touch Me (All Night Long)”…これらは、今となってはレアグルーヴやディスコ界隈で割と耳にすることもある楽曲だ。当時は、サンプリングネタというよりは、DJのミックスネタとしての市民権が高かったということか。
実際、このUBBがリリースされてきた80年代は、いわゆる「サンプリング黎明期」だったわけで、UBBには「サンプリングネタ」のみならず、「ブロック・パーティやラジオ番組での盛り上げ役」としての機能性が高かった楽曲も多く含まれることになった、という仮説はあながち外れてはいないだろう。

ところでこのUBB、楽曲の収録にあたってはライセンス的にクリアされているらしい。そうなると「仮に、権利問題を気にせず、思い通りに選曲していたならば、どんなラインナップになっていたんだろう？」という妄想が沸き上がってくる。実際、今回の作業の中で「あの曲が入ってない。なんで？」という場面は一度や二度ではなかった。
そういった意味では、このUBB、“未完の聖典”と言えるのかもしれない!?

■UBBに関する詳細データ（収録曲名等）はこちらで確認

https://www.discogs.com/ja/label/807847-Ultimate-Breaks-Beats?page=1

【出典】

How one essential vinyl collection transformed the sound of music and helped funky beats conquer the world | by Robbie Ettelson | Cuepoint | Medium